綴る

まつりの余韻

東京アートブックフェア2023が終わってひといき。私たちは会場に入ってすぐの場所で、外からお客さんが入ってくる様子が窓から見えたのですが、初日は驚くほどの長い人の列でした。入場するのに1時間かかったと聞いて、真冬ではないといえども寒い中、並んでまで足を運んでくださった方にありがとうとお伝えしたい。

篠原紙工は ボール紙見本帳 だけを展示販売しました。すると「潔いね」「尖ってるね」という声をよくいただきました。確かに、什器もボール紙でつくった物ですし、全体にトーンがグレーな印象。ここは一体…何を売っているの?という雰囲気だったかもしれません。私たちとしては、小さなブースなので極力情報量を減らして商品を見せることを考えていました。でも結果、謎の雰囲気が人の心を惹きつけたのか、たくさんの方々に商品の紹介ができた気がします。

何度もどこかしらでは伝えてはおりますが、ボール紙見本帳はそもそも「ボール紙だけの見本帳」がこの世に存在しているということがほぼ知られていない、ということから始まりました。篠原紙工のオフィスに来たあるデザイナーさんが「ボール紙にこんなにたくさん厚みの種類があるなんて知らなかった、ミリ単位は印刷会社さんが決めるものだと思ってた。」の一言からこの商品をつくるまでに至りました。自分たちもよく使う素材、そして篠原紙工がボール紙の見本帳をつくるからにはただ紙の束をまとめて綴じる、ではなく紙加工の要素やデザイン性も取り入れたものをつくりたい。そして実用性を重視した仕事道具と考えてつくった結果、販売価格は 22,000円 となりました。

ブックフェアでは商品の説明をした後、価格で驚かれてサヨウナラされることがほとんどでした。当事者はいろんなことが見えなくなるとは思うのですが、やっぱり高いのか…とその日、自分たちのやってることを見直したり、課題を突きつけられる感じもしました。(なぜなら初日は1個も誰の手にも渡らなかったのですから !)
ですが、現実がどうであれ、ブースに立つ側の人の心の状態は重要、と心改め、翌日からとにかく気分よくブースに立つ、必ず出会う人には出会う、そして気楽に。という言葉をおまじないのように心で唱えていました。2日目は平日、午後は私一人でブース番をすることに。すると一人になった途端、向こうから「篠原紙工知ってます、これ、絶対仕事に役に立ちます。」と私が一番欲しい言葉を投げかけて購入してくださる方に出会いました。香港とオランダを中心に活動されているデザイナーさんで東京にもよく来るとのこと。ひとつ、世界に見本帳が旅立ちました。その最初のお客さんのおかげか、その後も期間中、購入される方は静かに内心即決してくださっているような方が多いように思いました。

一気に50、100売れるものではありませんが、本当に必要な人のところに旅立ったというのが今回のイベントの感想。そして、分かってはいたけど、やっていることも商品もかなりニッチであるということ、自分たちはそういうところに好き好んでいるわけではないのだけど、結果、そうなってしまうことが多い。アートブックフェアではデザインや装丁など仕事でボール紙を使うという方にもたくさん会いましたが、そこまで響かなかった理由としては価格だけでなく、ミリ単位までの紙の違いは興味はあるけど、私たちがフォーカスするほど、そこまで重要、必要なこととしては捉えられてはいない、ということかもしれません。そんな現実とは向き合いながら未来を考えているブックフェア後の最近です。
でも、0.1数ミリ単位の違いを求める人にはとことん役に立つ商品であることには間違いない、私はそんなふうに思ってます。

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