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宮古島、納品という名の旅

大喜利印刷 https://oogiri-insatsu.com/ というプロジェクトに参加するために制作したプロダクト「はがせるテーブル」。紙が何枚も重なり高さは約85cm。一面を糊で製本加工し、構造はメモ帳と同じ作りです。何度かメディアで取り上げてくださった影響もあり、個人でこの「はがせるテーブル」を購入したいという方がいらっしゃいました。その方のお住いは、なんと沖縄の宮古島。「カードゲームをする際に点数表が直に書けるし、落書きをするのも好きで、商品を見たときに即座にこれ欲しい、と思った。」ということでした。

この案件担当の吉永さん。
約50kgの紙テーブルをどうやって沖縄に連れて行くのか?これまで積み重ねてきたお客さんとのメールのやりとり、そして商品の繊細さを考えると自分たちで直接顔を合わせて納品したい。その想いを社内で話していました。
その際に「沖縄に届ける仕事は自分がすることかも…?」と悶々と考えていたのは制作担当の岩谷くん。(普段は折り機を担当)。
はがせるテーブルの台座の部分を作ったのも彼。吉永さんの想いを叶えてあげたいと思うと同時に自分もお客さんが喜ぶ顔を直接見てみたい。それが動機となって、納品の仕事をすると決めたと言います。

岩谷くんは物を作る際、緻密な計算と起こりうるリスクを想像しながら最短で(完璧であろうと思われる)制作のルートを考えるのが得意。「やってみよう」とチャレンジするまでにものすごいエネルギーを使うタイプ。この納品では彼のその能力がとても役に立ったと本人は言います。吉永さんと岩谷くん、2人で1泊2日の納品の出張。彼はレンタカーのサイズ、お客さんのご自宅近くの道幅も調べ、「はがせるテーブル」を車から家の中まで傷つけずにどう安全かつスムーズに運べるかを計算。ありとあらゆる場面で運びやすくするために細かな工夫を仕掛けておきました。これも普段の物づくりの思考が「運送」ということに変わっただけで、できることは全てやったと、自信を持って話していました。

東京から商品だけ先に船便で送り、2人が後から飛行機で追いかけ、港で荷物を引き取り、レンタカーでお客さんに届ける。というのが計画でした。ところが…沖縄は台風が起こりやすいところ。案の定、船便が遅れて2人は着いているのに商品の方が遅れてしまうという問題に直面。このまま、現地の業者にお任せすることにも納得はできず、2人はその時点でできることを考え、まずは先にお客さん宅へご挨拶へうかがい、事情を説明。その後、岩谷くんだけ1泊延長して沖縄に残り、最後までお客さんに商品を直接届けることを決めました。


沖縄に残ると決めたのは良いものの、帰りの飛行機も、延長する分の宿泊施設も再確保しなければならない状態。(この時期でも結構な混み具合の宮古島。)ちょっとしたパニック。とにもかくにも頭を整理し、ひとつずつ、やれることを淡々と行います。しかし次のトラブルはレンタカーの延長ができないとのこと。「さて、どうしようか・・・」と考えていたところ、(すごい偶然!)吉永さんの友人が宮古島出身でご両親は今も宮古島にお住いであることを頼りに、車を借りることはできないか?と相談したところ、すんなりとOK。しかも…マンゴー農家であることから車も商品が入る大きさでした。吉永さんも東京へ帰る飛行機ギリギリの時間まで一緒にできることは行い、2人は別れ、岩谷くん1人での納品の旅が再スタート。

マンゴー農家さんから借りた車で、港に戻り、「はがせるテーブル」と再会。やっと会えた!と言わんばかり、商品に愛おしさを感じながらも着々と計画を実行に移します。船便のスタッフの方が親切にもフォークリフトで車に運んでくれたり、商品を守るために囲んでいた木枠のボードも残りは処分するからこのまま放置していいよ、と協力してくれ、感謝しかありませんでした。港を後にし、お客さんの家に向かいます。到着してからはお客さんにも手伝ってもらいながら家の中まで運び、用意していた毛布も予想通りに活用できて彼の緻密な計画はここでまた蘇りました。お客さんは高さのある紙の束、「はがせるテーブル」を見て感動。その様子を見て、岩谷くんは安堵感とここまで来てよかったと心から思える瞬間だったと語ります。

運送の仕事は終了し、あとは東京に帰るだけ。
安い宿泊施設を探し、予約した宿泊先はコンテナのようなものが個室にになった施設。受付に行くと冷凍食品が並び、それをレンジで温めて食べるというスタイルの必要最低限のサービス。ここでもやはり台風。『台風のため入荷できずこのメニューはありません。』とメモ。
「台風にはかなわない、あっさりサービスも停止する。ゆるいというか、大らかだなぁ…とも思ったな。」と彼は話していました。
それに加えて、「今回の件で…どんなに緻密に立てた計画でもあっさりと崩れてしまうことはあるし、全てのスケジュールがうまく行くことが前提で予定を立てた自分に甘さを感じました。知らない土地に行くのにタイトなスケジュールで時間に余裕がなかったのが今回の欠点だったと思います。」知らない土地で、慣れない初仕事、その日に取った宿泊先に一人。疲れてたとはいえ、起こった出来事を振り返えざるをえない環境だったのでは?と想像し、このまま自分の反省点を淡々と述べるのかな…?と思いきや、

「一人旅の経験がほとんどなくて、バックパッカーに少し憧れてたんですけど、こんな感じなのかな?ひとつずつ問題をクリアしている自分が楽しかったし、綿密な計画を立てることでつまずきもあったけど、やっぱりそれに助けられることの方が大きかったからこれでOKだと思います。はは。笑」と独特な透明感のある低い声と共に満面の笑みで話していました。 甘さを認めつつも「自分OK!」の姿は可笑しくも、たくましくもありつつ、そのライトな感じは私が見習いたいと思いました。

知らない土地に行けば想定外のことは起こるし、些細な出来事にだってその土地に合わせて対処しなければならない、特に文化の違いが大きいほど計画通りにはいかないことが多い気がします。結局のところ計画する旅であろうが、無計画の旅であろうが、その日に起こる予期せぬことを自分らしく、なんとか乗り越える、どう心地よく楽しくしていくかが一番大事なのかなと思います。出来事、出会った人、物、景色、人間以外の生き物、喜怒哀楽を感じながら再び次へ移動する。ひとりであればなおさら考えることも多くなりますが、そこから得た自分だけの答えや本物の経験ほど貴重な財産はないでしょう。
彼の話を聞いている間、旅に対する想いが溢れんばかりに湧いてきました。再び自由に移動ができる日がくることを願って。

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