誰かの日記

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純粋な意志に突き動かされて

静かに心地よく読書ができる店、Fuzkueというお店で働いている山口慎太朗さんとは、店主の阿久津隆さんの紹介で知り合いました。2019年の1年間、毎日架空の「誰か」になりきって日記小説を書き、メールマガジンとして配信し続けた山口さん。その小説を1冊の本にまとめたいとのご相談でした。

内容を見た時、まずその文章量に圧倒されました。
一つひとつの日記は短いものですが、それが積み重なった時のボリューム感は理屈を抜きにして、すごいものを見せてもらったと感動してしまいました。私は、誰に言われたわけでもなく何かを作ったり、行動し続けている人を見ると、その人の純粋な意志がそこにあるように感じられて、羨ましくなってしまいます。自分にはそんな強い意志はあるだろうかと。だからなのか、お金を出してでも作品を本にしたい。そんな強い意思を持って依頼してくれる人を、私は力の限り応援したくなってしまいます。

さあ、どんなデザインにしようかと、まずは山口さんから送られてきた原稿を眺めていました。
すると、心にゾワっとした感覚が湧いてきました。この日記小説は毎日同じ人物ではなく、日毎に主人公が代わる代わる登場します。のべ100人以上の人間がこの本に詰まっているのだと考えた時に、以前、電車に揺られながら見たある景色のことを思い出しました。
立ち並ぶ家々やマンション、数え切れないほどの窓、その数だけ、誰かの生活があって、それだけ人はぎゅっと詰まって生きているのだと感じて、あの時の感覚とこの日記小説がふっと繋がったのです。

そこから、私の制作パートナーであるSilhouette Booksの梶原恵さんと一緒にデザインを進め、表紙に365個の四角を並べ、1冊ごとに色がランダムに変化する特殊活版印刷をALBATRO DESIGNの猪飼さんに依頼しました。自立するほど分厚い本体も相まって、さながらマンションのような本が完成しました。
凝縮された山口さんの1年を、本を手にとった方に感じてもらえれば嬉しいです。

誰かの日記 / 2020
デザイン : Silhouette Books
製本ディレクター : 新島龍彦

協力会社 :
日経印刷株式会社 / 印刷
ALBATRO DESIGN / 表紙印刷

クライアント : 山口 慎太朗

担当 / この文を書いた人 : 新島龍彦

担当 / この文を書いた人 : 新島龍彦

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