綴る

まずは手を動かして

図書室の展示Bindery Story 002「神迎え」が始まってもう少しで1ヶ月。
「日本の神様の物語を、日本の紙に綴る、描く。」をテーマにつくられた本。こちらの本は特装版と書林版(通常版)があり、それらが完成に至るまでの試作品や石州和紙に描かれた原画が展示されています。

この本のアートディレクション・デザインを担当されたのは谷さやさん。図書室の展示も谷さんを中心に空間をつくっていただきました。展示台には完成品に至るまでの数々の試作品がたくさん並べられています。舞台となった島根県隠岐島の写真や画家の水野竜生さんがカードサイズの紙に描かれたスケッチ画など。石州和紙の原料である植物の楮などもあり、谷さんがこの本のアートディレクションをするまでに細かく資料を集めていたことが想像されます。何より、心を動かされたことは、小さな試作品、モックをたくさんつくっているところです。製本会社では「束見本」がそれにあたりますが、谷さんのはデザイナーとして、自分が納得する形や色合い風合いになっているかをきちんと確かめるために、ご自身が納得するためにやっているような気配がそれらの物から漂っています。そして、手を動かして実際につくってみることを楽しんでいるかのようにも。手でものをつくることへ敬意というか、想いが込められているのか、小さなモックたちは(とても稚拙な表現ですが、)愛らしく、谷さんのディレクションの世界観が表現されているように感じます。

図書室の天井はとても高く縦に広がっているのですが、その空間を活かし、石州和紙に描かれた神楽の原画がつるされています。図書室の扉を開けておくと風が入り、ゆらゆらと揺れる様子は不思議ととても心地よく、見入ってしまいます。ある日のこと、図書室を開けているとご近所にお住まいらしき、女性がいらっしゃいました。かつて展示や美術関係でお仕事をされていた方のようで、一つ一つ丁寧にご覧になり、谷さんの小さなモックたちを見て、「この方は、とても誠実なデザインをされているわね。デザインしてあとは印刷や製本屋さんにお任せ、じゃないのね。」とお話ししてくださいました。

誠実とは。しかも、「誠実なデザイン」とは。その女性の言いたかったことを私がキャッチしきれているかは分かりませんが、私が谷さんのモックたちから感じる愛を、その女性は誠実と感じて、どちらにせよ、何かを感じられるモックたちであるということは間違いなさそうです。
誠実、そこに心が入っているか否か。心というものは見えないけれど、物には関わった人のエネルギーが宿る、私たち篠原紙工も信じている考えの一つです。誠実な仕事の逆は?不誠実、不真面目、横着でしょうか。やっつけ仕事というのはいつかどこかで必ずボロが出ますね。どんな些細なことでも今この瞬間、自分の心、意識はどこにあるか、ということは意識して日々過ごしたいものです。

「神迎え」は関わった方々の想いが詰まり、何かお導きがあって完成された神々しい本だと私は感じています。画家、著作家、デザイナー、書家、和紙工房、製本会社、どの工程でも心が宿っていて、どこから説明したらいいのかと迷ってしまいます。そのあたりはぜひ、著者やデザイナーから直接お話しを聞いてもらえたら嬉しいです!7月26日(土) 15:00-16:30 篠原紙工図書室にて神迎えの本ができるまでのトーク、ぜひこちらもご参加ください。
申し込みはこちら。https://binderystory-002.peatix.com/

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