綴る

手紙

今年のゴールデンウィーク中、ある著述家の方がこんな提案していました。「今あなたが思うことや、お悩みを手紙に書いて私に送ってください。お返事はできませんが、1通1通、大切に目を通して、あなたのことを想い、私があなたの幸せを願います。」

コロナウィルスの影響で家か近所をウロウロすることしかできなかったこともあり、手紙を書いてみるのもいいなと、家にあったお気に入りの最後の便箋セットを使い、書いてみることにしました。特別な悩みがあるわけでもなかったのですが、その著述家の方が好きだったのと、なんとなくこのままでいいのだろうか? まぁ、想念のようなものですが、思いのまま書いてみました。多少の誤字脱字も気にせず、相手に聞いてもらうような感じで書いていたのですが、書いているうちに、どうしてこの著述家の方がこんなことを始めたのかがなんとなく伝わって来るような気がしました。

返事が来ないとわかっていても読む相手がいて、誰かに書いていると思うと冷静に自分の心が落ち着いて来るというか、大丈夫だ。と思えてくるのです。
きっとこの著述家の方は、気持ちを言葉にすることの大切さ、心を整えるいい行動として捉えていたのではないかと思いました。コロナウィルスで見えない不安に襲われているこの世の中のために何かできないか?と思ったから始めたのかもしれません。私も、軽い気持ちで手紙を書くつもりだったのに、書いていると案外ストレスが溜まっていたのかな?と気づいたり。そして、書き終わった後は小さな達成感とその著述家の方に感謝の気持ちでいっぱいになりました。


先日、篠原紙工のオンラインショップでアイデア出しの際に、「手紙」というキーワードが出てきました。20代の社員は「手紙は…何書いていいか、わからないんですよね。」と。その気持ちもわからないことはない。いざ書くとなるとどうしよう?と思う人もたくさんいるでしょう。今の20代の人がそうなのであれば、これから生まれて来る子は手紙なんて生涯書くこともない人も出てくるかもしれません。

私も手紙を書いたのは本当に久しぶりで、スマートフォンでの簡単なメッセージ送信に比べると時間と労力は普段の倍使いました。ただ、メッセージよりも相手に語りかけるような感じで、何より体全体を使って何かを伝えるということをした気がします。頭、心、手、視覚、最後に手紙を折って便箋に包む時は紙の感触だったり、住所を書く際、他県であると相手との距離を確かめたり…。
ボタン一つで思ったことを相手に即座にメッセージで送れるのに慣れてしまうと、手紙のようにアナログなことは頻繁にはできないかもな、とも思ったのですが、これも慣れてしまえば新しい楽しみになるかもしれません。相手のことを想い、今の自分の近況や気持ちを言葉にするのは思いのほか思考の整理になりますし、手紙を送りたいと思う相手がいることに幸せを感じたり。筆マメな人になってみるのも素敵ですね。相手からの返事は期待しなくとも。

綴る04