クラムボン「モメント e.p.」

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音楽のCDアルバムも野菜の産地直送のように

メジャーから独立して初のアルバム制作

ここ最近、CDを紙ジャケットで作りたいという依頼が増えてきました。

その中でも思い出深いのが2016年に制作したバンド、クラムボンのアルバム「モメントe.p.」。当時の担当営業がクラムボンのファンでもあることから、喜んで受けることになりました。

クラムボンは2015年にメジャーレーベルから独立、その後初めてのアルバムとなった「モメントe.p.」。 CDショップ等の全国流通ではなく、通常のプラスチックケースを使わずに自由なジャケットデザインができるため、ボーカルの原田郁子さん直筆のイラストレーションを生かした紙ジャケットを作りたいとご相談をいただきました。

初めてのゼロからのデザイン案件

デザインは篠原紙工の増渕みづ紀が担当。社内のちょっとしたデザインの仕事はしていましたが、本格的な会社の案件としてデザインをするのは初。紙加工の現場を知っている強みから量産可能なデザインをいくつか提案し、その中で原田さんのアイデアを取り入れながら進めていきました。しかし、デザイン業務の進行管理をするのも初めてです。原田さんが描いたイラストをパソコン上で一緒に見ながら何度も調整を繰り返しました。当時はどうやって効率よく進めていいか分からず、常に同席してレイアウト指示をもらわざるを得ない状況でした。今思うとプロのデザイナーならこういう進め方はやらないだろうと過去の未熟さを振り返ります。

ライブ会場でCDアルバムをクラムボンご自身で直接販売し、その場でサインもすることから、歌詞カードをライブ会場で落としたりしないようにと平ミシン綴じで縫い込む仕様にしました。アルバム表紙にあるタイトル「モメント」の文字は抜き加工を施し、その表紙の裏から透明フィルムが見えるようになっていて、光で反射するとキラリと輝くようになっています。そしてクラムボンというバンドの名前を引き立たせるために洋服のブランドタグのように黄色いタグを付け、マットシルバーでバンド名「clammbon」の箔押しをあしらい、華やかさを出しました。「紙ジャケットで全体的にのっぺりとした印象を避けるため、どこか光る仕様を取り入れたかった。」と増渕は話しています。

ファンとの距離感を縮めて音楽も気持ちもダイレクトに届ける

この案件を動かしていた時は年末年始の慌ただしい時期な上、原田さんは体調を崩されていて、ミュージシャンとして大切な喉の調子が非常に良くない状態でした。相当の体調不良にも関わらず、辛い表情も見せずジャケットのデザイン制作を続けていてこのアルバムに対する真剣さが伝わってきました。未発表のデモ音源を聴きながらデザインイメージを膨らまし、原田さんのディレクションと増渕のデザインワークでまさに二人三脚の制作でした。ファンとの距離感を縮めてダイレクトに自分たちの音楽を届けたいという気持ちについて、原田さんは「野菜の産地直送みたいなイメージ」と話していました。増渕は「その言葉がとても分かりやすかったので、その気持ちを共有させていただきながら進行できたと思う。」と話しています。

まさに産地直送という考え方は様々な業界で広まっているのかもしれません。

メジャーから離れ、自主レーベルだからこそ自由にできる表現を求め、縁が巡って篠原紙工にきてくださいました。ファンとの関係性や想いを大切にし、自立して自分たちの方向性を追求する姿勢はどこか篠原紙工の考え方と近い気がしてクラムボンというバンドを音楽だけでなく、在り方そのものを応援したい気持ちになりました。

原田郁子さんからのメッセージ

「どんなことがやりたいですか?」とまず最初に聞いてくださいました。「できる、できない」は後から検証していくとして、まずはイメージを広げてみませんか、と。初めて打ち合わせに伺った時のこと。モノづくりにおける心意気、気概のようなものを感じて、「面白いことがはじまる」とワクワクしました。「アーティストさんと直接やりとりさせてもらう、ということはこれまでになく、自分たちのような業界は陰で支える仕事でもあると思ってきたので、とても新鮮です。嬉しいです。」と言ってもらったことも印象的でした。

篠原さんにとっても「初めて」がたくさんお有りだったと思いますし、こちらも本当に「初めて」づくしでした。それまでデザイナーさんやスタッフさんにお任せしてきた領域にも直接関わっていく。「こっちの紙なら、○○円下げられます」「うーん、じゃあ、こっちかな」とコストを踏まえて素材を選んでいく。既存のものではなくて、パッケージを設計していく(篠原紙工さん × コスモテックさん × 東北紙業さん)。何度も何度もやり取りを重ねて、試作を作っていただき、予算とスケジュールを調整しながら、デザインも細部に至るまで丁寧につめていく。職人さんたちの手作業も見せていただく。その行程一つ一つが新鮮で、嬉しかった。

今は、パソコンやケータイでアクセスすることで音楽や動画を楽しむことができます。だけど、だからこそ、パッケージをつくれる機会があるのであれば、面白いものをつくりたい。各会場で実演販売、サイン会をしながら廻るツアーは、新作を一人一人に手渡ししていくようでもあるので、手にした時の手触り、仕掛けや遊びがあるといいなぁ、などなど。こちらの理想に対して、篠原さんは想像を超えたアイデアを出してくださる。「え?そんなことできるんですか?」と思わず聞いてしまうほどだ。何という頼もしさ。

ついに出来上がったモメントe.p.は、今まで見たことのない、どこにもない佇まいの作品となった。わぁ、すごいなぁぁ。何度も触ってみたり、眺めてみたり。しかし、喜びも束の間、ツアー初日の名古屋公演で声が出なくなってしまう、、、。あの時の悔しさ、不甲斐なさ、支えてもらったこと、実感したこと、、。モメントe.p.とともにツアーは続きました。

そして、更に深度は増して、モメントe.p.2、クラウドファンディンでの野音DVD、モメントe.p.3 と、パッケージ制作していくことになります。

篠原紙工さんと、出逢えていなかったら、、?
想像するだけで、あまりにも、さみしいです。
そのくらい、バンドにとっても、私個人にとっても、おおきな出逢いだったと思います。

あくなき探究心。クリエイティヴィティに。
いつもありがとうございます!!!
また!

原田郁子(クラムボン)

クラムボン「モメント e.p.」 / 2016
デザイン:増渕みづ紀
製本ディレクター : 北川夏希

サイズ : W135×H135mm
タグ : ダイニック「新日本の色」細布 5たんぽぽ
表紙 : Uボード ホワイト LT 370kg
本文 : OKアドニスラフW AY 46.5kg / アリンダ AGT-ES100 100μm 菊
トレイ : NPCC#26 LT114.5kg / リンテック上質タック 四六 55kg / Uボード ホワイト LT 370kg
仕様 : 表紙手折り / タグ手貼り / 平ミシン綴 16p(2丁)
数量 : 10,000部

協力会社 :
有限会社コスモテック / 箔押し
株式会社東北紙業社 / 抜き
株式会社明祥 / 印刷両面特1c
株式会社ニューウェル合紙 / 合紙
株式会社スリーエムプリンティング / セット作業

担当 : 増渕みづ紀

担当 : 増渕みづ紀

一言では言い表すことが難しいほど、思い入れがあります。デザインは美大で学んだだけで、実務経験などほとんどなかったにも関わらず、貴重な機会を与えてくださった原田さん、松見さん、コスモテックさん、東北紙業社さん、そして篠原紙工の皆。当時は船をコントロールする難しさではなく、そもそも船に乗るだけで精一杯という心境で、自身の未熟さを学ばせていただきました。篠原紙工に入社して初めて「どうしたら(お客様に)喜んでもらえるのだろう」と本気で模索したお仕事でした。

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